←PREVNEXT→【2014年9月】> 20140927/
平成26年度 第9回 近畿大学 生物理工学部 公開講座
近畿大学 生物理工学部 平成26年度 第9回 公開講座(BOST Science Cafe)を聴講してきました。
日時:平成26年9月27日 13:30〜
会場:奈良ロイヤルホテル(鳳凰の間)
【プログラム】
1.老化の制御と健康寿命/医用工学科 教授 伊藤 浩行(いとう ひろゆき)
(13:40〜14:30)
老化および老化とともに増加する3大疾病の病態を概説するとともに、
その予防に関してラットを用いた実験結果と対比しながら解説します。
2.「微生物」は敵か、味方か?/食品安全工学科 准教授 東 慶直(あずま よしなお)
(14:35〜15:25)
我々人類と知らない間に深い関係いなっている微生物について、そして私どもの
「敵とも味方ともなる微生物」の研究について紹介させていただきます。
3.その他、コーヒーブレイクをはさんで、15:45頃から質疑応答の時間がありました。
詳細は、近畿大学生物理工学部 平成26年度 第9回公開講座 のページをご参照下さい。
【概要報告】
1.老化の制御と健康寿命(HP講義内容より)
日本人の平均寿命は男性79.9歳、女性86.4歳となり、世界一の長寿国となりました。しかし、
日常生活が制限されない期間いわゆる健康寿命は男女それぞれ70.4歳、73.6歳で、平均寿命との
間に10年余りの差が見られます。できるだけ自立して生活できる期間を延ばすことが、個人に
とっても社会にとっても重要な課題になっています。よく知られているように、3大死因はがん・
心筋梗塞・脳血管障害であり、これらの疾患を予防することはとりもなおさず老化を制御し、
健康寿命を延ばすことに繋がります。本講演では老化および老化とともに増加する3大疾患の
病態を概説するとともに、その予防に関してラットを用いた実験結果と対比しながら解説します。
健やかに老いるために良い生活習慣を身につけましょう。
【管理人の寸評】(分かったこと)
「老化の定義」は、ストレイラー(Strehler)により提唱された4原則が有名で、
「普遍性(誰でも)があり、内因性(自分自身の中から)で、進行性(休むことなく)
且つ有害性(死につながる)のある身体的変化」とされている。当然、誰も避けること
はできない。歳とともに誰でも感じる兆候は体が硬くなることであろう。皮膚も血管も
歳とともに硬化の一途をたどり、単純に考えると「老化は硬化である」ともいえる。
老化の原因説は種々あり複合的影響のようだが、大きく分けて2つの原因説がある。
1)プログラム説:遺伝子の中に、老化の過程が組み込まれているという説
2)分子傷害蓄積説:さまざまな障害因子により遺伝子が損傷を受け、完全に修復
されなかった遺伝子が蓄積し、細胞の機能が低下するという説
講義の中で興味深いラットの実験結果がありました。肥満型脳卒中ラットを用いて、
幼若期に一定期間カロリー制限(70%に制限)を行うと、最近発見された細胞の代謝を
調整する長寿遺伝子サーテユイン(Sirtuin)が活性化され、脂肪や肝臓における代謝が
改善されるというメカニズムが明らかになったとのこと。さてこれから何がいえるのか、
要は定期的に一定期間カロリー制限(70%に制限)すると、老化が遅延するということ。
また、メタボリックシンドロームが動脈硬化症の原因になることは周知のことだが、
腹囲が何と関係しているのかが分かりました。近年脂肪細胞から多くのホルモンが
(アデイポカインと総称される)が分泌されていることが明らかになりました。この
脂肪から出るホルモンには、身体にとって有用なものから有害なものまで多くのものが
含まれているが、肥満すなわち脂肪細胞が肥大するとこれらのホルモンの分泌異常が生じ、
その結果糖尿病や高血圧・高脂血症などが惹き起こされます。(肥満合併症)これらは
何れも動脈硬化の重要な危険因子であり、従って肥満は心筋梗塞や脳梗塞あるいは老化の
原因としてきわめて重要であることが明らかになっている。特に皮下脂肪に比べ内臓脂肪
は活発な作用を示すため、メタボ診断ではまず腹囲が診断基準になっていることも理解
できた。
管理人的結論は、老化は避けられないが遅延させることはできる。適度な有酸素運動と
規則正しい食生活により実現できる。糖分や脂肪分を控えた減塩食を腹八分目にすること。
食事前に有酸素運動をして脂肪を燃やすこと。定期的にカロリー制限(70%に制限)すること。
また、老化によって心身機能は低下していくが、知能や創造性、拡散的思考は低下しにくい
ものであり、そのことだけは救われる。(画家や作曲家は老年期に大作を残している。)
2.「微生物」は敵か、味方か?(HP講義内容より)
地球上で人類がアプローチできるあらゆるところ、公園の土や水たまりはもちろんですが、
凍てつく高峰、深海、熱湯泉、大規模ボーリングにより到達できる地底にも、微生物はかならず
棲息しています。そして、人の腸内や皮膚表面にはおよそ100兆匹もの微生物がすんでいると
されていまして、常に寝食を共にしています。普段の生活では、お風呂のカビを「除菌剤」で
掃除するとき、風邪を引いてのどが痛いとき、そして納豆を箸先でこねているときに、なんとなく
その存在を感じることができる程度でしょうか。ところで、次世代DNAシークエンサーという
解析機器とコンピュータの発達によって、今まさに微生物の情報は爆発的に増加し、微生物研究は
その急激な変化に対応している最中です。本公開講座では、我々人類と知らない間に深い関係に
なっている微生物について、そして私どもの「敵とも味方ともなる微生物」の研究について、
ご紹介したいと思っています。
【管理人の寸評】(分かったこと)
いろいろなお話を聞いていると、この地球はまさに微生物に支配されている。一部の微生物は
病気をもたらすが、我々の体にも100兆個の微生物が常在している。微生物と共存していて、
数々の恩恵も受けている。これらの微生物を有効利用しながらバランスを崩さないで共存して
いくことが、生物多様性になり生物資源の持続可能な利用に繋がる。要は微生物がないと人類は
破滅するということ。これらの微生物は多くの食品に係わっているし、医薬品や工業製品の生産
にも微生物が必須である。多くの微生物をゲノムレベルで理解し、有効に活用する研究は非常に
重要であることがわかる。
管理人的結論は、微生物の研究と有効利用は人類の持続的繁栄に必要であり、微生物と上手く
付き合って行く必要がある。
※2014年10月20日追記(近畿大学生物理工学部公開講座係から、質問票の回答が来ました。)
以下に、管理人が質問票で質問した内容と、メール連絡のあった回答を紹介しておきます。
【H26度第回公開講座(奈良)質問&回答】
【質問】
将来は遺伝子の操作により、老化をほぼ防止することが可能になると思われますか?
(先生の個人的な意見で結構です。)
【回答】
老化のメカニズムが完全に解明されたわけではありませんが、老化は複合的な変化の総和で、
単一の因子(例えば遺伝子)の制御のみで防止することはできないと思います。
【質問】
人類(人種)が滅びる時、最後はやはり細菌に滅ぼされると思っています。隕石説もありますが、
先生はどう思われますか?
【回答】
わたしは恐竜の絶滅さえも微生物(クラミジアか?)が原因だと思っています。
クラミジアには、進化的に植物に寄生していた証拠がありますし、現在アメーバなどの原生動物、
鳥類、ほ乳類には寄生します。しかし、両生類やは虫類にはほとんど寄生しません。しかも、
多くのクラミジアの進化は約1億年くらい前に大爆発を起こしています。つまり、少なくとも
恐竜の絶滅に伴って、クラミジアも大絶滅したと思っています。
ところで、人類の絶滅が起こるとすると、戦争、感染症、隕石、気候の激変、などいろいろ
あると思います。微生物が原因ではあって欲しくないと思いますね。
→ その他の「セミナー、講演会」参加記録は、 マイセレクション/「セミナー、講演会、展示会」へ