品質管理テーマhistoryBACK
HOME【品質管理テーマ】ISO9001とTS16949の特徴(比較)入門用

 ISO/TS16949はISO9001規格の上に、自動車業界に特化した要求事項を付加したセクター規格です。
品質要求の高い自動車用部品を製造するサイトが認証取得するのだから、厳しい規格であることは
容易に想像が付きます。
 ISO9001とTS16949の特徴を比較した入門用の資料を作りました。あくまでも分かりやすさを追求して
いるため、厳密な正確さはありません。

それではまず、ISO9001のおさらいから始めます。

ISO9001(品質マネジメントシステム―要求事項)とは?

 まず品質マネジメントシステムとは、「製品及びサービスを提供するための仕事の仕方(仕事の質)
を改善しながら、お客様の満足度を向上していく仕組み」
のことです。
平たくいえば、「仕事をうまくやるための仕組み」となります。
ISO9001は、その仕組みを更に良くしながら、お客様の満足度を向上させていくためには、最低限
「何をすべきか」
という、組織活動における「原理・原則」を要求している。

 この規格には、製品やサービスそのものの具体的な品質基準は一切示されていません。
絶対的な基準(価値観)は環境や企業によって違い、それを固定化することはできません。
具体的な基準は「それぞれの企業が決めれば良い!」ということです。
また仕組みを具体的にどうするかは規定していません。自分たちの仕事の特性や事情を考慮して、
「それぞれの企業が決めれば良いこと」です。

ISO9001規格は、結局何を要求しているのか?

 製品やサービスの品質向上は結果であって、規格の要求事項に適合しながら、
「組織の業務を標準化し、品質マネジメントシステム(仕事の質)を継続的に改善すること」
を要求しています。
改善を行うきっかけは、もちろん不具合・クレームの発生や目標が達成できなかったことです。
標準化の目的は、よい製品(サービスを含む)を妥当なコストで安定して供給することで、
お客様に満足してもらうためです。ただし、何をどこまで実施するのかは組織に任されている。

ISO9001の要求レベル

・顧客要求事項を満たすことを確実にする。(仕組みを作って運用)
・プロセスの結果(パフォーマンス)が計画通り達成するよう継続的に改善する。
・品質マネジメントシステム(仕事の質)の有効性を継続的に改善する。
・アウトソースしたプロセスも管理を確実にする。(管理の仕組みを作り、管理強度は組織が決定)

ISO9001の効果的な運用に必要な概念

ISO9001の規格要求事項は、「品質マネジメントの8原則」がベースになっている。
  a)「顧客重視」
  b)「リーダーシップ」
  c)「人々の参画」
  d)「プロセスアプローチ」
  e)「マネジメントへのシステムアプローチ」
  f)「継続的改善」
  g)「意思決定への事実に基づくアプローチ
  h)「供給者との互恵関係」
 規格要求事項の序文0.1に、「この規格は、品質マネジメントの原則を考慮に入れて作成した」と記されて
いる。d)「プロセスアプローチ」についても、序文0.2に品質マネジメントシステムの有効性を改善する
際に、プロセスアプローチを採用することを奨励している。
ちなみに、日本のTQCは、d)「プロセスアプローチ」とh)「供給者との互恵関係」の考え方が弱い。

4.1「一般要求事項」の内容はそれ以降のすべての章への要求事項となります。
 分かりやすく説明すると、
 a)業務(プロセス)には何があるのかを明確にしてください。(部門名称とプロセス対応表)
 b)その業務(プロセス)がどのように繋がっているか、他部門との相互関係を明確にしてください。
 c)それぞれの業務(プロセス)がうまく行くように、必要なルールを作り、それぞれの業務を
  管理するために必要な判断基準を決めてください。(この場合の判断基準とは、8.2.3の業務が
  うまくいっていることを判断する基準のこと。)
 d)それぞれの業務(プロセス)を行うために、必要な人を配置し、必要な施設や設備、必要な情報が
  使用(利用)できるようにしてください。
 e)それぞれの業務(プロセス)が、うまく進んでいるか監視・測定・分析をしてください。
  (8.2.3に具体的な要求がある。)
 f)それぞれの業務(プロセス)が、計画どおりの結果が得られるように、必要ならば、業務のやり方を
  改めてください。また、今より仕事がうまく行くように改善し続けてください。
  (8.2.3に具体的な要求がある。)

8.2.3「プロセスの監視及び測定」を分かりやすく説明すると、
  組織は、品質マネジメントシステムのプロセスを適切な方法で監視し、適用可能な場合には、
 測定をすること。これらの方法は、プロセスが計画どおりの結果を達成する能力があることを実証する
 ものであること。計画どおりの結果が達成できない場合には、適切に修正及び是正処置をとること。

 ここで、「プロセス」について、ISO9000「品質マネジメントシステム―基本及び用語」には、
 3.4.1 プロセス「インプットをアウトプットに変換する、相互に関連する又は相互に作用する一連の
 活動。」と定義されています。なんでこんなにややこしい言い方をするのでしょうか。平たくいえば、
 プロセスとは「結果を出すための仕事の仕組み」のことです。
  内部監査の目的は、プロセスからの結果が良くなるようにこの仕事の仕組みを見直すことです。
 そのために、業務の仕組み(システム)の改善の機会を見つけます。

内部監査に関するISO9001の要求事項

8.2.2 内部監査
  組織は、品質マネジメントシステムの次の事項が満たされているか否かを明確にするために、
 あらかじめ定められた間隔で内部監査を実施しなければならない。
  a) 品質マネジメントシステムが、個別製品の実現の計画(7.1 参照)に適合しているか、
   この規格の要求事項に適合しているか、及び組織が決めた品質マネジメント
   システム要求事項に適合しているか。
   →個々の製品についてのルール(製品仕様、検査基準、作業基準など)を守っているか。
    ISO9001のルールと合っているか。会社が決めた仕事のルールを守っているか。
  b) 品質マネジメントシステムが効果的に実施され、維持されているか。
   →業務の仕組みがうまく機能して、良い結果に結びついているか。その状態が保たれているか。

  監査の対象となる「プロセス」及び領域の状態及び重要性、並びにこれまでの監査結果を考慮して、
 監査プログラムを策定しなければならない。

 認証を取得して数年以内や、大きな組織変更があった時などは、a)の適合性を監査で確認することが
必要と思います。認証取得してから多くの年数が経過している会社においては、適合性監査をやっても
あまり指摘が出てこない。まさに、監査員や被監査部門の貴重な時間とコストのムダ使いとなる。

 マネジメントシステムの運用年数や成熟度によって監査のその目的は変わってくると思います。
会社として大切なことは、適合性だけでなく(適合性の確認が必要な時もあるが)プロセスの目的が
達成できているか、計画通りに業務が実施されていて、意図した結果がでているか(有効性の評価)、
結果がでていないようであれば、その原因は何か?などを内部監査でも確認していくことが必要だと
思います。(プロセス監査)



さて、ここからがISO/TS16949の特徴となります。

ISO/TS16949について

 ISO9001はあらゆる分野に汎用的に適用されるものであるため、産業分野によっては必ずしも完全に
対応しきれないと思われる部分があります。その部分を補完するためにISO9000シリーズをベースに
それぞれの産業分野に特化した要求事項を付加してセクター規格が作られました。
ISO/TS16949は、ISO9001要求事項に自動車業界共通の要求事項を追加したものです。(上乗せ規格)
備考)米国の自動車メーカであるビッグスリー(GM、Ford、Chrysler)などが共同で策定した
国際規格QS9000が始まりで、のちに欧州の自動車メーカー(ドイツ、フランス、イタリア)も加わって
グローバルに一本化したISO/TS16949が制定されました。

 この規格は、IATFによって、ISO/TS176 (品質マネジメント及び品質保証)の支援を受けて作成されました。
IATFとは、International Automobile Task Force(国際自動車タスクフォース)の略で、ISO/TS16949の規格、
ルールなどを統括管理している団体です。(世界で唯一のTS審査機関の認定を行う機関)
ISO/TS16949の審査登録業務はIATFから承認・契約されたマネジメントシステム審査登録機関のみが認証活動を
実施できます。日本ならびにアジア地域には、IATFメンバーがいないので、米国のオーバーサイトボディである、
IAOB(International Automotive Ovesight Body)が管轄しています。

 その他、ISO/TS16949では、登録されたサプライヤーのパフォーマンス(品質や納期)の向上がみられない
場合、認証の更新が受けられない場合がある。さらに、不良品や納期遅延などの多いサプライヤー(部品会社)
があった場合、自動車会社は審査機関を監督するオーバーサイドボディに対し、部品会社の認証取得に対して
不服申し立てを行なうことができる。
 自動車会社は、グローバルに展開したサプライヤーを管理するのが大変なため、ISO/TS 16949を取らせる
ことにより、管理を楽にしているともいえる。

ISO/TS16949が適用される組織

 顧客が指定する、自動車の生産用部品、サービス用部品を製造するサイト(自動車のサプライチェーン)
に適用される。→よって、必然的に自動車に使われない部品は適用外となる。

自動車産業の特徴

(1)自動車は多くの部品とシステムで構成されている。1台の自動車に使われている部品の数は、
 平均で約3万点、高級車では5万点といわれている。
(2)多くのサプライヤーから供給を受け、多くの人間が関与して、一台の自動車ができている。
 サプライヤーは、一次サプライヤー、二次サプライヤー、三次サプライヤーと裾野が広く、
 品質保証に果たす役割が非常に大きい。
(3)1個の部品でも不具合が発生するとクレームになり、重要故障に繋がる可能性がある。(リコールの発生)
(4)価格競争が激しく、新型車のタイムリーな投入が必要。
 価格(C)を抑え高い信頼性(Q)を短納期(D)で実現しないと、勝ち残れない。

 自動車は購入部品の品質がそのまま自動車の品質に反映されるという特性が強く、サプライチェーン
としてのマネジメントが非常に重要となる。そのため、供給者には、ISO9001の要求事項以上の要求が
必要となっています。

自動車に求められる品質

(1)過酷な使用環境(温湿度範囲、振動、長時間使用)
(2)使用者は一般ユーザが対象であり、予想外の使い方がされる。
(3)モノづくりを基本とした品質向上と、他社が追従できない品質を実現しないと勝ち残れない。
(4)お客様にとっての品質=魅力的品質+当たり前の品質
 自動車に求められる品質要求は、過酷な使用環境、リコール問題の予防、各国法規制への適合等、
 非常に高いレベルで品質を保証することが求められます。

 以上のような背景から、材料・部品の製造から自動車の最終組立に至るまで、サプライチェーンで
一貫して不具合のない製品を安定して製造する仕組が必要。⇒それが、ISO/TS16949規格

ISO/TS16949要求事項の特徴

ISO9001の序文に、0.5「このTSの到達目標」が追加されている。
サプライチェーンにおける不具合の発生予防、並びにバラツキ及び無駄の減少に重点を置いた
継続的改善をもたらす品質マネジメントシステムをつくりあげることである。

これらは、まさに製造現場の実態感覚にあっている。また、これらはISO9001規格には記載されていない。
以下に、ISO/TS 16949の特徴を示します。

1.品質マネジメントの8原則の適用を強調
2.プロセスアプローチを強調
 ISO9001規格の4.1「一般要求事項」a)〜f)と、プロセスの監視測定(特に設計と製造プロセス)を重視。
3.プロセスのパフォーマンス重視
 品質目標、納期遵守、生産性、工程能力、コスト目標等の設定と目標達成のための継続的改善を重視。
 TS16949規格の5.1.1「プロセスの効率」には、プロセスの有効性と効率をレビューするよう求められている。
4.設計開発段階の重視
 予防の視点を強く取り入れた部門横断チームによる設計開発の運営が重視されている。
5.製造工程の重視
  特殊特性(品質特性、管理特性のうち影響の高いもの)の指定と特別重点管理として、FMEAの実施、
 コントロールプラン(QC工程図)への明記、バラツキの低減、工程能力の向上などが求められている。
6.供給者の管理の重視
 サプライチェーンとしての win-win を築くために供給者へのISO/TS16949を最終目標としたISO9001の
 取得支援等を重視されている。
 TS16949規格の4.1.1「一般要求事項―補足」アウトソースしたプロセスに対する管理を確実にしても、
 全ての顧客要求事項に適合させる責任を、組織は逃れることはできない。
7.不具合の再発防止と未然防止
 過去トラ情報活用、ポカヨケ、是正処置の水平展開が要求されている。

ISO/TS16949の要求レベル

上記のISO9001の要求レベルに上乗せする形で、以下のことが要求される。
(1)顧客要求事項を満たし、顧客の期待を超えるように努力する。
(2)プロセスの結果(パフォーマンス)の向上目標を設定し、達成するよう継続的に改善する。
(3)品質パフォーマンスを継続的に向上させ、組織の売り上げ、利益の向上、発展に繋げる。
(4)供給者が品質マネジメントシステムを構築できるよう支援、指導する。
(5)供給者を監視し、供給者の製造工程のパフォーマンス(品質、納期)を向上させる。
(6)他社が追従できない品質を実現する。

ISO/TS16949のコアツールとは(参照マニュアルとして用意されている。)

TS16949の認証では、顧客要求事項への適合の重要な手法であるコアツールを効果的に用いることが求められる。
1.先行製品品質計画(APQP)及びコントロールプラン(QC工程図)
  製品に対して顧客が満足することを確実にする上で、必要なステップを明確にし、設定するための
  系統的な手法。
  目的:設計・開発の様々な段階を期日通りに完了することを保証するため。
2.製品承認プロセス(PPAP)【規格要求事項】
  生産部品承認のための一般要求事項を規定したもの。
  目的:顧客に納入する生産部品を顧客に承認してもらうためのプロセスを明確にしている。
    (変更承認のルール)
3.故障モード影響解析(FMEA)
  事後に不具合が発生する可能性を事前に低減するための手法。(設計FMEAと工程FMEA)
  目的:潜在的な不具合の予防
4.統計的工程管理(SPC)
  製造工程(プロセス)を統計的手法を用いて管理し改善する手法。(管理図、工程能力指数)
  目的:工程で品質を保証するためにバラツキを統計的に分析する。
5.測定システム解析(MSA)
  ゲージR&R分析を適用し、測定システムのバラツキを必要最小限に抑えることを目的とした解析手法。
  目的:測定者間、測定者内のバラツキを低減するため。

内部監査に関するISO/TS16949の要求事項

ISO9001と同じ観点の「品質マネジメントシステム監査」の他に、「製造工程監査」と「製品監査」がある。

8.2.2.1 品質マネジメントシステム監査
  ISO/TS 16949及び追加されたあらゆる品質マネジメントシステム要求事項に適合していることを
  検証するために、組織の品質マネジメントシステムを監査しなければならない。(仕組みの監査)
8.2.2.2 製造工程監査
  その有効性を判定する為に、個々の製造工程を監査しなければならない。
  →QC工程図に従って製造されているか、現場の作業者に直接確認します。(現場監査)
8.2.2.3 製品監査
  製品寸法、機能、包装、ラベリング等、すべての規定要求事項(顧客要求事項)への適合を検証するために、
  生産及び引き渡しの適切な段階で、定められた頻度によって製品を監査しなければならない。(型式検査)
  →簡単に言うと、製品のが仕様書どおりに製造されていることを検証します。

以上は、分かりやすさを追求しているため、厳密な正確さはありません。

実は、もっと簡単なイメージング用資料も作っています。
 →「ISO9001とTS16949の要求レベルの比較(イメージング)」をご参照ください。

【よく分かる参考図書】

     


当サイト内の内容、画像の無断転載、転用については固くお断りします。
Copyright (C) 2009 Mottai-Navi All Rights Reserved.