プロセスアプローチとは、ISO9001やISO/TS16949などが推奨している、
製品の品質を維持し、
しかも利益の出る企業にしていくための、仕事の基本的な考え方のことをいいます。
すなわち、利益の出る会社でなくては、品質や顧客満足度を維持する事はできないという、
市場原理を示しています。
ただし、この考え方をきちんと理解している人は意外と少ないようです。日本的な品質管理では、
工程内の品質至上主義であり、後工程はお客様という考え方一辺倒であったことが原因しているの
ではと思います。
プロセスアプローチを簡単にいえば、一つ一つの業務をプロセスと考え、プロセスの中では
顧客満足のための品質の維持や業務の効率を追求する。ただし、それだけではなく、受注から出荷
(アフターサービスを含)までの
業務全体の効率(流れ)を良くするため、自分の業務(プロセス)
だけではなく、前工程や後工程の業務(プロセス)との繋がりや影響(効率)を考慮し、
各プロセスの集まりをシステムとして運用管理しながら、全体最適化を図っていくことです。
キーワードは、「部門間の壁を低くする」と「チームワーク」です。
1.まずは、規格要求事項からの説明(ISO9001:2008から抜粋し、説明用に編集)
【序文0.2 プロセスアプローチ】
この規格は、品質マネジメントシステムの有効性を改善するために「プロセスアプローチ」
の考え方を取り入れることを推奨している。
組織内において、望まれる成果を生み出すために、プロセスを明確にし、その相互関係を
把握し、運営管理することと併せて、一連のプロセスをシステムとして適用することを、
プロセスアプローチと呼ぶ。
備考)「プロセスアプローチ」という考え方が先にあって、ISO9001はその考え方を取り入れる
べきといっている。ISO9001だから「プロセスアプローチ」をやるのではない。これは、
ISO9001の制定原理である、「品質マネジメントシステムの8原則」を見れば分かる。
【4.1 一般要求事項】(口語訳)
a)業務(プロセス)には何があるのかを明確にしてください。
b)その業務(プロセス)がどのように繋がっているか、他部門との相互関係を体系図などで明確に
してください。
c)それぞれの業務(プロセス)がうまく行くように、必要なルールを作り、それぞれの業務を管理
するために必要な判断基準を決めてください。
(この場合の判断基準とは、8.2.3の業務がうまくいっていることを判断する基準のこと。)
d)それぞれの業務(プロセス)を行うために、必要な人を配置し、必要な施設や設備、必要な情報が
使用(利用)できるようにしてください。
e)それぞれの業務(プロセス)が、うまく進んでいるか監視・測定・分析をしてください。
(8.2.3に具体的な要求がある。)
f)それぞれの業務(プロセス)が、計画どおりの結果が得られるように、必要ならば、業務の
やりかたを改めてください。また、今より仕事がうまく行くように改善し続けてください。
(8.2.3に具体的な要求がある。)
【8.2.3 プロセスの監視及び測定】
組織は、品質マネジメントシステムの
プロセスを適切な方法で監視し、適用可能な場合には、
測定をすること。これらの方法は、プロセスが計画どおりの結果を達成する能力があることを
実証するものであること。計画どおりの結果が達成できない場合には、適切に修正及び是正処置を
とること。
備考)この項目は「製品に関わる業務」に限定していません。製造以外の仕事でも必要なものがば
あれ実施して下さい。
例えば営業、購買、設備管理などについて、仕事の進捗度や成果を
管理しているのならば、それをこの項目で取り上げてください。以下に例を示します。
例)・仕事の進捗度
・仕事の成果(製品品質以外で)
・品質目標の達成状況
・照会件数
・リピート率
・顧客アンケート回収率や結果
・クレーム、不具合の発生状況
2.プロセスとは
会社や組織の活動は、いくつもの業務(プロセス)が集まって出来ており、この一つ一つの業務を
管理しなければなりません。(ここで言っている業務は、個々の作業を指すことも、ひとかたかた
まりの仕事を指すこともあります。)それぞれの業務について見れば、
インプット(部品、原料、
中間製品、必要な情報)と
アウトプット(仕事の成果)があり、ある業務のアウトプットが、
次の工程のインプットになるというように、業務が繋がって行きます。
プロセスとは、「インプット(入力)をアウトプット(出力)に変換するときに資源を使って
運営管理する活動」と定義されています。組織内で目的をもって行なわれている一連の活動を意味し、
簡単に言えば「業務」あるいは「業務のかたまり」のことであると理解するのがよい。
3.プロセスアプローチの手順(方法)
1)自部門の業務(プロセス)を明確にする(プロセス表、プロセスフロー図など)
2)各業務(プロセス)の目的、目標(結果)を明確にする
3)他部門との相互関係を明確にする(体系図)
4)評価指標(管理項目)を幾つか設定する。
(問題点や状況が見えやすく、不適合が発見しやすい評価指標がよい)
5)評価基準(管理水準)と監視頻度を決定する
6)プロセス監視の実施、運用
7)不適合を発見した時は是正処置を計画する
8)是正処置を実施する(プロセス、評価指標・基準等の再定義が必要なら実施する)
ポイント:その業務(プロセス)が上手くいっている(目的を達成できる)ことを、適切にモニター
(監視)するための仕組みが必要。繋がっている業務全体を一つのシステムとして管理し、
その結果として合理化や効率化が図られ仕事の成果を上げる。
4.プロセスアプローチの利点
プロセスアプローチを取り入れて管理すると、日常の業務を進める中で、自然に、全体の仕事の
流れや、各々の業務(プロセス)の間の繋がりが管理できます。また、業務全体から見た合理化
(効率化)が図られていく。
その結果、利益の出る会社になる。ただし、全員がこの考え方で
仕事をしないと、効果が出ません。なぜなら、プロセスは繋がっていて相互に影響し合って
いるからです。
5.もっと具体的な事例
例えば、製品検査プロセスを例に取ってみます。
(業務の各要素を明確にし、タートル図の管理項目で示してみます。)
1)プロセスの責任者:製品検査課長
2)プロセスの前工程:製造プロセス(組立、生産管理)
3)プロセスのインプット(物と情報):製品、検査図面、指示書、製造オーダー票
4)プロセスの業務(目的):検査員による製品検査、不具合の検出、ロット不具合の検出
5)プロセスに必要な資源:(設備資源)検査装置、指示計器、パソコン
(人的資源)検査員資格、製品知識、異常に気付く力量
6)プロセスの方法(手順):検査標準、検査手順
7)プロセスの目的達成を保証する管理指標:不具合品の流出率(限度値以下)
8)プロセスのアウトプット(物と情報):製品の合格証、検査記録、物流部門への引渡し
9)プロセスの後工程:物流プロセス(梱包、出荷)
さて、このプロセスが目的を達成できることを保証するための管理指標は「不具合品の流出率」
が限度値以下としています。プロセスの責任者である、製品検査課長はこの指標が管理値以下で
あることを、監視しているだけでプロセスが上手くいっていることを保証できます。また、管理
限界を超えた時には、3)〜8)のどの部分に問題があるのかを突き止め、是正処置を施します。
インプット(製品)の不具合率を監視し、不具合が増えてきたら前工程プロセス(製造)に
情報を入れ、改善を指示します。
後工程プロセスである物流プロセスでは、出荷時間ぎりぎりに引渡しされる製品が多くなったり、
送り先の宛名や住所が曖昧であったりすると、前工程プロセスの製造や生産管理に連絡します。
備考)評価基準については、プロセスの目的が達成されることを保証できる管理値になります。
普段うまくいっている(目的が達成できている)のなら、前年度の測定値の平均値としてもよい。
ただし、パフォーマンスの向上を目的とするのなら平均値+αとするのがよい。(推奨)
以上の活動の本来の目的は、製品品質と顧客満足度の向上です。ただし、
真の目的は部門間の
壁を無くし、業務全体の効率を向上させることにより、利益の出る企業にすることです。
(念のために・・・)
6.最後にもう一度まとめ
もう一度「プロセスアプローチ」をまとめてみると、まず、
(1)自部門の業務(プロセス)
を見える化し、部門間の壁を低くする。そして、
(2)その業務(プロセス)を監視して
目的が効率よく達成できるよう、継続的に改善する。ただし、それだけではなく
(3)前工程
からの影響と後工程への影響を考えて、業務の繋がりの部分の効率を良くする。その次に、
(4)各業務(プロセス)の集まりを1つのシステムと考え、システム全体の効率をよくする
ことを考える。システムの中に、ボトルネックな業務(工程)、効率の悪い業務(工程)、質の
悪い業務(工程)などが1つでもあると、システム全体の効率や質が悪くなる。これを防止する
ことが「プロセスアプローチ」最終目的となる。そのためには、組織変更や人員配置、設備投資、
他部門からの一時的な応援、業務の繋がりの改善、業務効率の改善などが必要となる。
(システム全体を鳥瞰する。)すなわち、
(5)システム全体の効率を考えて良くしないと、
納期や利益を確保できない。
こうして考えていくと、「プロセスアプローチ」は部門間の壁を低くすることが重要であり、
業務間のコミュニケーションの重要性が見えてくる。これらは、ISO9001の要求事項だから取組む
のではなく、
儲けるための生き残りをかけた経営戦略であることが分かる。
【付記】コミュニケーションについて
通常業務で発生するコミュニケーション以外にも、部門間の壁を低くするために有効的な
内部コミュニケーションがあります。業務の流れをよくするために、前後のプロセス間での
インフォーマルな意見交換や、お互いの業務の勉強会を定期的に行ったり、お互いに内部監査を
やり合うなど。時にはオフサイトでやるのも宜しいんじゃないでしょうか!?
【付図】
上記の、5.1)〜9)を明確にし、ポイントとなる管理項目を六つの枠に当てはめ、漏れなく
リストアップしたものを「タートル図」又は、「タートル分析図」といいます。
「タートル図」はプロセスアプローチを運用するためのキーツールです。
タートル図の目的は、まずプロセスの目的を明確にする。次にそのプロセスの目的を達成させる
ための各要素と他のプロセスとの繋がりを明確にすることです。
そして、そのパフォーマンス(評価指標)を監視・測定して業務改善を行うために用いられます。
【参考資料】ISO9001 タートル図の運用(プロセスアプローチ) 著者:管理人(MORIO)
評価指標と基準値の考え方
【参考書籍】
プロセスアプローチやタートル図について、まじめに勉強するなら、以下の書籍をお薦めします。
タートル図を中心に、効果的なプロセスアプローチを実践するため、
品質マネジメントシステムの改善を推進している方の教科書です。
日科技連:「タートルチャート活用によるプロセスアプローチの実践」
沖本一宏 著
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